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東京高等裁判所 昭和52年(ラ)690号 決定 1978年3月13日

抗告人

内田多計子

相手方

有限会社勝山建材店

右代表者

石井錦吾

主文

原決定を取り消す。

本件不動産強制競売開始決定を取り消し、本件不動産強制競売の申立を却下する。

理由

一抗告人は、主文同旨の裁判を求め、その理由として、次のとおり述べた。

(一)  抗告人は、昭和四八年四月一三日五島商事株式会社から本件不動産の所有権を取得して、同年同月二〇日その旨の登記を経由したものである。

(二)  ところで、相手方は、さきに右五島商事株式会社を債務者として本件不動産につき仮差押命令を得、同年同月一六日仮差押登記を経由していたが、その後右会社との間の千葉地方裁判所館山支部昭和四八年(ワ)第一九号損害賠償請求事件の勝訴判決を債務名義として、静岡地方裁判所富士支部に対し、本件不動産について強制競売の申立(同庁昭和四八年(ヌ)第二〇号不動産強制競売事件)をし、同裁判所支部は、同年九月一一日強制競売手続開始決定をした。

(三)  ところが、同裁判所支部は、右強制競売につき、最低競売価額をもつて差押債権者の債権に先立つ不動産上の総ての負担及び手続の費用を弁済して剰余がないため、昭和四九年五月一六日差押債権者にその旨通知したが、七日の期間内になんらの申出がなかつたとして、同年五月二八日民事訴訟法第六五六条第二項により、これを取り消した。

(四)  よつて、右強制執行は終了し、これに先行する前記仮差押の執行も効力を失なつたから、爾後は本件不動産につき旧所有者五島商事株式会社に対する債務名義をもつて再び強制執行を申し立てることはできなくなつた。

(五)  しかるに、相手方は、昭和五〇年一二月再び同裁判所支部に対し、本件不動産につき五島商事株式会社に対する前記債務名義に基づいて強制競売の申立をし、同裁判所支部は同年同月九日強制競売手続開始決定をしたので、抗告人は、右決定に対し異議の申立をしたところ、その理由がないものとして右申立が棄却されたので、その取消を求めて本申立に及んだ。

二よつて考えるに、取寄にかかる静岡地方裁判所富士支部昭和四八年(ヌ)第二〇号及び同年(ヌ)第二一号各不動産強制競売事件記録によれば、抗告人主張の一の(一)ないし(三)の各事実並びに本件不動産につき石井錦吾が昭和四八年四月一八日仮差押登記を経由しており、同人が昭和四八年九月一一日五島商事株式会社を債務者として静岡地方裁判所富士支部に強制競売の申立(同庁昭和四八年(ヌ)第二一号不動産強制競売事件)をし、同年同月一八日記録添付の手続がとられたが、同裁判所支部は、昭和四九年六月二四日前記同様の理由により、民事訴訟法第六五六条第二項の規定に従い右強制競売を取り消したことが認められる。

右のように、仮差押の執行がなされた後に債権者が債務名義を取得し、右仮差押の目的たる不動産に対して本執行を申し立てた場合、仮差押執行の効力は当然に本執行に移行し、本執行手続が終了したときは本執行及びこれに先行する仮差押執行も同じく効力を失なうものというべく、この理は、ひとたび本執行が開始され、その後民事訴訟法第六五六条第二項によつて本執行たる強制競売手続の取消決定がなされ、競売申立人らからの不服申立もなく右決定が確定し、これにより本執行手続が終了した場合においても、異なるところはない。これを本件についてみるに、前記認定したところによれば、相手方が本件不動産についてした仮差押の執行は、競売裁判所の前記強制競売取消決定が相手方らの不服申立なく確定したことにより効力を失なつたものというべきであり(仮差押登記の抹消登記がされていなかつたとしても同様である。)、したがつて、相手方が再度仮差押債務者であつた五島商事株式会社に対する前記債務名義に基づいて本件不動産につき本執行の申立をすることは、許されないところといわなければならない。そうとすれば、相手方のした本件不動産強制競売の申立は却下を免れないものというべく、これと異なり右申立を認容してなされた本件不動産競売手続開始決定及びこれに対する抗告人の異議申立を棄却した原決定は、いずれも失当であるから、取消を免れない。

三よつて、原決定及び本件不動産強制競売手続開始決定を取り消し、本件不動産強制競売の申立を却下することとして、主文のとおり決定する。

(安藤覚 森綱郎 奈良次郎)

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